虫めづる日本の人々@サントリー美術館
四季草花虫図 市川其融 江戸時代
個人的に興味深かったのが「草虫図の受容」の章。
中国絵画好きとしてはやはり目が行きます。
宋元や明代に描かれた「草虫図」という画題を
日本の画人がどう受容し、自分たちのものとしていったか。
作品比較などを通してわかりやすく展示されています。
日本の昆虫画にはこの中国の草虫画の影響や
西洋由来の博物画の影響があるといわれています。
竹虫図 伝趙昌 南宋 東山御物。笹の葉の描写など、思いの外繊細でした
草虫図 呂敬甫 明
この辺の中国絵画など観ていると、ツタのうねり方や切れ味のよい笹の葉など、
実に若冲を感じます。相国寺なんかでこういう中国絵画を彼も観ていたのでせうか。
中国における草虫画は縁起物の意を込めたものだったそうです。
たとえば中国皇帝の冕冠(簾のついている冠)には再生の象徴として
蝉の装飾があしらわれていたそうですが、そういうイデオロギーなしには
虫などという「とるにたらぬもの」を中国の人々は描き得なかったのかな、とか。
それはそれで中国っぽいな、とも思うのですが。
和歌の歌題として、或いは単に知的好奇心から虫を描いていたであろう
日本の素朴さとの違いなど、専門家ならずともあれこれ想像が膨らみます。
松本交山という画人の「百蝶図」が出色でした。
富裕の町人(深川の茶屋の主人だったらしい)で家督を弟に譲り、
酒井抱一に師事したそうです。俳諧や絵を嗜み80過ぎ迄生きたとか。
若冲とも共通点が多い。
百蝶図 松本交山 波間にたゆたふ色とりどりのてふてふ
草花群虫図 狩野伊川院英信 江戸時代
群蝶図 岸岱 江戸時代
虫がどうこうというより中国絵画と江戸絵画の関係性に
つい興味が向いてしまいます。
こういう文化の受容の流れが分かる展示、もっとやるべきと感じます。
江戸絵画が何に影響を受け、どういう風に形成されてきたのか。
日本美術における虫というテーマを、単に「日本人は細かい表現が得意」とか
「他国に比べ虫に興味を向ける日本人」のような自己完結的な文脈のみに
落とし込むことなく提示できている点において、豊かな展示となっています。