唐絵展@根津美術館

漁村夕照図 牧谿

鶉図 伝李安忠 この羽毛の描写の緻密さよ

瓜虫図 呂啓甫
牧谿の良さが初めて実感できた気がします。
淡い淡い、湿潤な空気の漁村図。
鉤勒で描き込むばかりが中国絵画じゃない、当たり前だけど。
南宋絵画を皮切りに、室町水墨画が中国絵画の何を受け入れ
何を受け入れなかったか。
日本人は雄大で複雑な北宋絵画をあまり好まず、南宋絵画を好んだ、
湿潤な牧谿の画風は殊に日本で崇められたといわれます。
とはいえ選択できるほど沢山の中国絵画が日本にもたらされたとも
正直思えません。当時から貴重なものだったでしょう。
思えば江戸京都の絵師たちが手本とした沈南蘋が
当時の中国絵画のトレンドではなかったように、
明治の洋画家たちがラファエル・コランという
本国ではほとんど知名度のない画家に範を取ったように、
「そういうものだと思って」たまたま出会ったものを崇めてしまった、
みたいな心理がありそうです。
素人考えですがあるいは牧谿もそんな可能性がありそうな気がします。
もし北宋絵画の佳品が多数来日していたらどうだったのか。
自分の感性で作品を観て選んでいるようで、
その実、「中国から来たありがたい絵画」という情報を
消費したに過ぎない、というような。
それをいうならすべての芸術作品とされているものは制度的に選ばれているもので、
人々のピュアな感性によって選ばれるようなものではないのですが。

山水図 賢江祥啓
祥啓も初めて観ましたが
正直、方向性は雪舟とさほど変わらないようにも思え。
要するに単純化というか。
雪舟と比べると緻密というか安定感があります。
雪舟は留学先の明で流行していた浙派・
祥啓は伝来の南宋絵画に影響を受けたと言われます。
祥啓に浙派の奔放さはなく、南宋の端正さが際立ちますね。
