高秋山景展の作品搬入がてら、
運慶展と驚異の超絶技巧展を観に行きました。
まずは上野の東京国立博物館・運慶展。
正直、満員電車状態を覚悟していたのですが、
人出こそ確かに多いもののさほどストレスにもならず、
ゆったりと仏との語らいを楽しむことが出来ました。
彫刻は人が前面に立って作品を鑑賞するしかない平面と違い、
360度の鑑賞空間を確保出来るせいもあるからかもしれません。
仏像や聖人に生々しいリアリティを加えて、運慶は何を訴えたかったのか、
なぜ中世という時代が彼をして、そういう表現に走らせたのか。
表現にリアリズムが出てくる時代には、
何か抜き差しならない現実がそこに顕在化される状況があるように思います。
仏教が都の皇族や貴族だけで完結せず、
厳しい現実を生きる下々の衆生にも行き渡った結果このような力強い表現に至った、
ということでしょうか。
館内は当然撮影禁止だったので図録を。
図録は展覧会のもう一つの楽しみでもありますが、
いかんせん重いのが難点・・。
運慶は別冊太陽を既に持っているしなあ、などと思い手に取ってみたら
以下のような素晴らしい装幀・内容だったので思わず購入。
仏像のクローズアップ多め。写真家の、運慶仏を余すことなく観せてやろうという心意気が伝わってくる図録です
さらに東洋館へも。
西アジアの仏像とチベット仏教の仏像。一口に仏像と言ってもこれだけ表現の幅がある
明代の絵画と唐三彩
東洋館は照明が薄暗く、いつ行っても人がほとんどいません。
(この日はどういうわけか外国人旅行者と思しき人たちが10数名おりました)
ですが中国絵画など、観るべき作品が結構出ていたりするので見逃せないのです。
美術館では企画展に人が入っても常設展には入らない、とよく聞きます。
自分も以前はあまり観ることがありませんでしたが、
これは実にもったいない話で、日本の美術館の常設展は
実際どこもかなり充実しています。
そしてその美術館の個性、コレクションの方向性が
最も垣間見えるのが常設展です。
次は三井記念美術館の「驚異の超絶技巧 ー明治の工芸から現代アートへー」へ。
稲崎栄利子(陶芸)
山口英紀(水墨画)本場中国に留学されていたそうな。・・直線、どうやって描いているんだろう。
前原冬樹(木彫)元プロボクサーだそうな。蔦と有刺鉄線はまさかの一木造り
現代の作品群が明治工芸を圧倒していて、鳥肌の連続でした。
池田学さんの作品もそうですが、多くの観客がこういった視覚体験を経ることで
「超絶技巧」や「細密」といった言葉の持つハードルの高さが、
ここ10数年で飛躍的に上がっていると思います。
一応細密画的な作品を作る者の端くれとしては、本当に驚異的で空恐ろしいことです。
作品をいろいろ観ていて感じたのが、
こういった超アナログな表現分野であっても
現代だからこそ出来る表現がある、ということ。
例えば山口秀紀さんの水墨画。
ビルという現代的なモチーフを扱っていて、
しかも写真の忠実な模写なので当然と言えば当然ですが、
ピントのあっている所とそうでないところまでしっかり描き分けられています。
後は極めて厳密な直線や左右対称の構図など、
デジタル的な現代の視覚経験を経由した表現であることは明白です。
これは単にアナログな技術を追求しているだけでは決して到達できない表現です。
このことは、現代のすべての表現に言えることですが。
敢えて下世話なことを指摘すれば、
こんな手の込んだ作品でどうやって採算を採っているのだろう、と。
気の遠くなるような制作時間に膨大な手作業。
端くれとしては、そういったところも気になるというか、
身につまされるのでした。
同じビル内にあったシンガポール料理の店でチキンライスのランチなど。
本場のものと比較するとどうしてもちんまりした感じになりますね。