YOSHITO ISHII:ROTRINGER'S DIARY

日日是匍匐:時時跳躍

中国現代アート所感


体制か反体制かに関わらず、
アートが政治に関わる(関わらざるを得ない)状況というものは、
あまり良いものではない。



例えばナチスが推奨していた美術作品には、
古き良きドイツの農村風景をワイエス張りに
美しく描いた絵画作品群がある。

ワイエス好きの日本人は、描かれた経緯を知らなければ普通に感動するだけだろう。
でもこれも「優秀なるゲルマン民族」の表現のひとつだ。



中国が隔年でやっている全国美術展というのも
随分批評家泣かせなんじゃないか。
日本に巡回してきた展覧会を見に行った事があるけれど、
どの作品も圧倒的な技術力だし、描かれているテーマも現代的で
センスが良くてシャレも効いててすごく面白い。

だけどこの時の大賞受賞作品は、
川に入っていって水害を食い止める人民解放軍の兵士と、
それを陣頭指揮する江沢民主席の姿を描いた絵画だった。
さてこの現実をどう判断すればいいのか。
美術手帖は何年か前に、この作品を巻頭カラーで取り上げた。
あの美術手帖が。特に批評的な言説もなしに、だ。

だが中国のアバンギャルドを追っかけてきた日本の批評家は
官制展覧会というだけで批判するか黙殺する。
良くも悪くも今の中国の表情を伝えているという点では、
それなりに言及すべきだろうに。
政治的な判断でアートを観る癖がついてしまうと、
こんな風に落とし所がなくなる。



中国のアバンギャルド芸術について言うと
(作品を至近距離で見るとよく分かるが)
中国アバンギャルド系の絵画作品、総じて技術が低い。

会田誠氏みたいに本当は上手い人が戦略的に
わざとそういう技術水準でやっているのならまだしも、
自分の技術の拙さを政治へのアイロニーというテーマで糊塗してるだけなら
滑稽でしかない。
(中国のアバンギャルドといったら朱冥だ。
彼も「胎児の死体を食った中国人芸術家」として
ふたばチャンネル当たりでディスられてたらしいが、
あの人はずっとあの手の表現を捨て身でやってきた人だ。
今更あの程度の表現がなんだというのか。
人体を材料にした作品なんて、あの国にはいくらでもある)



もっとも中国の場合、
凄まじいエリート主義への反発ということも
あるのかも知れないが。
日本のように美大を出ていない若者が
作家を目指せる状況なんてないだろうし。
上智と下愚のくびきが日本とは比較にならないほど厳しいはずだ。
(でもその割にはアバンギャルド系の作家でも中央美術学院卒とかだったりする。
学校は行かず在野から出てきましたなんて中国人作家を見たことがない。
俺が知らないだけかな)。


昔、大学で管懐賓という作家の特別講義を
受けた事がある。件の美術手帖に当人が教授として紹介されていた。
あの時の彼は凄くシャープな感じの青年だったが、
載っていた彼は見事に中年のおっちゃんになっていた。
インスタをやっている人だったけど、
スライドで見た作品の完成度がえらく高かった。
コンセプトも結構分かりやすくて良質な作品だった。



まあでも、高校の美術室で芸術新潮に載っていた
方力鈞の作品を見たときはやっぱり興奮したなあ。
中国も日本と同じ時代を生きてるんだって思ったよ。
今じゃ彼、北京中にレストランを持ってるそうで二度びっくりだ。
あのドイツ人の奥さんとも別れて、若い中国人女性と再婚したそうな。



以上、中国現代アートについての雑文でありました。